2020年01月29日
平和への願いとともに生まれた徳川家康―山岡荘八『徳川家康』第1巻
《令和6年10月25日更新》
皆さんこんばんは。
今回は山岡荘八氏の大作『徳川家康』(全26巻)の黎明である第1巻「出生乱離の巻」のご紹介です。
【歴史創作についてのこれまでの記事】 | |
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・津本陽『椿と花水木』―幕末の勇者・ジョン万次郎の波乱万丈の人生 | ・吉川英治『三国志』(一)~(四) |
個人的にはこの『徳川家康』は祖母が愛読していたということで、いつか読もうと思っていた作品でした。
読み始めたのは先の平成24年。今から8年前です。
他の本に浮気しつつも全26巻を最初に読み終えたのが、2年後の平成26年ごろだったと思います。
直後に2回目を読み始め、それが終わったのがまた2年後の平成28年ごろ。
またすぐに3回目を読み始めて今は23巻を読んでいるところです。
徳川家康というと、「織田信長と豊臣秀吉が作り上げた天下統一の功績を、関ヶ原(せきがはら)の戦いと大坂(おおさか)の陣で豊臣家を滅ぼしてかっさらった」みたいな言われ方をしていますが、僕はそれを払しょくしたい!
この小説は全26巻あるので非常にハードルが高いのですが、この小説さえ読んでいただければ、家康のそういった「古狸(ふるだぬき)」的なイメージは払しょくできると信じているのです。
では、第1巻のレビューをどうぞ!
※記事下部に人物の読み仮名をのせています。
『徳川家康』の他の巻についての記事を読みたい方は、下記リンクをタップしてください:
徳川家康の生涯を貫く思想―山岡荘八『徳川家康』第4巻
関連記事:
言葉と人間の本質を見極めた「人間学」―山岡荘八『徳川家康』第3巻
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苦難の時代の幕開け―山岡荘八『徳川家康』第5巻
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小牧長久手の戦いに学ぶ―勝ちすぎてはいけない
↓こちらの本について書いています。
徳川家康(1) 出生乱離の巻 (山岡荘八歴史文庫)
徳川家康出生前夜
物語は徳川家康の出生前から始まります。
天文(てんぶん)10年(1541年)、三河岡崎(みかわ・おかざき)の戦国大名(せんごくだいみょう)松平(まつだいら)氏は尾張(おわり)の織田(おだ)氏、駿河(するが)の今川(いまがわ)氏に挟まれて存続が危うい状況でした。
一時三河一国を席捲(せっけん)した松平次郎三郎清康は、尾張の守山(もりやま)にて織田弾正忠信秀(信長の父)の計略によって自分の家臣によって暗殺されます。
松平家の跡を継いだ次郎三郎広忠は幼少で、一族の裏切りにより一時伊勢国(いせのくに)に逃れます。
のち東条吉良左兵衛佐持広の援助によって三河岡崎に復帰しますが、松平一族は相変わらずバラバラでした。
東は織田弾正忠信秀、西は今川治部大輔義元の圧力にさらされていました。
於大の方の輿入れ
当時の武家の結婚は恋愛結婚などほとんどなく、政略結婚と呼ばれる政治的な意味をもった結婚でした。
徳川家康の母於大(おだい)の方の輿(こし)入れも例外でなく、政治的な狙いをもった結婚でした。
於大の方の父水野右衛門大夫忠政は三河刈谷(かりや)城の城主でしたが、刈谷のすぐ西は尾張。織田弾正忠の勢力圏でした。
右衛門大夫は弾正忠に協力することで命脈を保っていましたが、水野家と松平家は松平清康の代から対立している重代の敵でした。
しかし、右衛門大夫は娘の於大を松平広忠に嫁がせることでその争いを終えようと考えます。
於大の方は敵地に嫁ぐので、その輿入れは大変なものでした。
輿入れに反対する勢力にいつ襲われるかわからない。
松平家の家臣である阿部大蔵定吉、酒井雅楽助政家〔正親〕、鳥居伊賀守忠吉、大久保新八郎忠俊ら三兄弟などの活躍により、無事輿入れをします。
徳川家康は危うい状況の中生まれ出たのでした。
生母於大との離別
天文12年(1543年)、水野右衛門大夫は死に、跡を継いだ下野守信元は妹於大の方が松平家に嫁いだことを快く思っていませんでした。
松平家は今川家に従っていましたが、下野守としては今川家と絶縁して織田弾正忠に従いたかったわけです。
その点では於大が松平家に嫁いでいることはマイナス要因となっていました。
翌天文13年、下野守はその考えを実行に移し、今川治部大輔と絶縁しました。
そのことによって、松平家は今川家に筋を通すために水野(みずの)家出身である於大の方を離縁することにしました。
徳川家康、数え年3歳のときのことでした。
第1巻は、この後松平広忠が今川家側で三河田原(たはら)の領主である戸田弾正少弼康光の娘真喜姫(まきひめ)を後室(こうしつ)として迎えるところで終わっています。
(以前言及した「小豆坂(あずきざか)の合戦」がこの巻で描かれています)
山岡荘八氏作品の何が素晴らしいか
どの作家さんもそうかもしれませんが、山岡荘八氏の素晴らしいところは『徳川家康』によって伝えたいメッセージに筋金が入っていることですかね。
山岡荘八氏は戦争を体験しています。
日中戦争(にっちゅうせんそう)・太平洋戦争(たいへいようせんそう)ですね。
そのため、戦争の悲惨さ、平和の大切さをよく知っていたわけです。
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そんな彼が『徳川家康』を書くことで読者に伝えたかったのはやはり「平和への願い」でした。
この第1巻に描かれたのは家康の母於大の輿入れと家康の誕生です。
上でも述べましたが、松平広忠と於大の方の結婚は水野氏と松平氏の積年の対立を終わらせること、つまり西三河に平和をもたらすことが目的でした。
水野氏が代替わりしたことでその願いははかなく終わりましたが、徳川家康は、こういった人々の平和への願いによって生まれたという背景がありました。
この物語のテーマがここで強く印象付けられています。
この作品のすばらしさはその一点だと思います。
歴史小説(これは「時代小説」ではなく「歴史小説」です)としては物語的要素が少なくドキュメント的に淡々と描かれているために、非常に読みにくいという意見もあります。
しかし僕は、山岡荘八氏のこの「願い」に心を打たれました。
それはそのまま徳川家康の願いとして描かれています。
徳川家康は実際に天下を統一しました。
豊太閤(ほうたいこう)〔=豊臣秀吉〕が死んで乱世に戻りそうになったとき、関ヶ原の戦いで反乱分子を一掃して乱世回帰を防ぎました。
主に戦を知らない世代が大坂城にこもって世の中を混乱に陥れそうになったとき、大坂の役として豊臣(とよとみ)家を攻めることで乱世回帰を防ぎました。
僕は、世の中の人にこの山岡荘八氏の願い、徳川家康の願いを伝えたいと思っています。
正直全26巻を読むのは根性がいると思うのですが、ぜひ多くの人に読んでいただきたい作品です!
次回の記事を読みたい方は、下記リンクをタップしてください:
山岡荘八『徳川家康』第2巻―これぞ徳川家の柱石・三河武士の死にざまだ!!
○今回登場した人物のフルネーム(参考:「武家や公家の名前について」)
・徳川 太政大臣〔通称は次郎三郎〕 源 朝臣 家康
とくがわ だじょうだいじん〔通称はじろうさぶろう〕 みなもと の あそん いえやす
・織田 右大臣〔通称は三郎〕 平〔藤原、忌部〕 朝臣 信長
おだ うだいじん〔通称はさぶろう〕 たいら〔ふじわら、いんべ〕 の あそん のぶなが
・羽柴 太政大臣〔通称は藤吉郎〕 豊臣 朝臣 秀吉
はしば だじょうだいじん〔通称はとうきちろう〕 とよとみ の あそん ひでよし
・松平 次郎三郎 源 清康
まつだいら じろうさぶろう みなもと の きよやす
・織田 弾正忠〔通称は三郎〕 藤原〔忌部〕 朝臣 信秀
おだ だんじょうのちゅう〔通称はさぶろう〕 ふじわら〔いんべ〕 の あそん のぶひで
・松平 次郎三郎 源 広忠
まつだいら じろうさぶろう みなもと の ひろただ
・東条吉良 左兵衛佐〔通称不明〕 源 朝臣 持広
とうじょうきら さひょうえのすけ〔通称不明〕 みなもと の あそん もちひろ
・今川 治部大輔〔通称不明〕 源 朝臣 義元
いまがわ じぶのたゆう〔通称不明〕 みなもと の あそん よしもと
・水野 右衛門大夫〔通称は藤七郎〕 源 朝臣 忠政
みずの うえもんのだいぶ〔通称はとうしちろう〕 みなもと の あそん ただまさ
・阿部 大蔵 阿部 定吉
あべ おおくら あべ の さだよし
・酒井 雅楽助〔通称不明〕 源 朝臣 正親〔政家〕
さかい うたのすけ〔通称不明〕 みなもと の まさちか〔まさいえ〕
・鳥居 伊賀守〔通称不明〕 平 朝臣 忠吉
とりい いがのかみ〔通称不明〕 たいら の あそん ただよし
・大久保 新八郎 藤原 忠俊
おおくぼ しんぱちろう ふじわら の ただとし
・水野 下野守〔通称は藤四郎、藤七郎〔劇中では藤五郎〕〕 源 朝臣 信元
みずの しもつけのかみ〔通称はとうしろう、とうしちろう〔劇中ではとうごろう〕〕 みなもと の あそん のぶもと
・戸田 弾正少弼〔通称不明〕 源 朝臣 康光
とだ だんじょうのしょうひつ〔通称不明〕 みなもと の あそん やすみつ
☆武家の「通称」の普及を切に願います!
参考
家康の足跡 IN 東海
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徳川家康(1) 出生乱離の巻 (山岡荘八歴史文庫)
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Posted by 鷲谷 城州 at 22:00│Comments(0)
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