四万十川の合戦―戦う前に勝つ

鷲谷 城州

2019年07月25日 19:00


《令和6年9月18日更新》

皆さんこんばんは。
今回は「合戦における戦術について」シリーズの第17弾ということで「四万十川(しまんとがわ)の合戦」について書きます。
『歴史と旅』増刊「日本合戦総覧(昭和63年1/10臨時増刊、秋田書店)」の作家の小石房子氏の記事を参考にしています。
※記事下部に武家や公家の人物名の読み仮名を載せています。


【これまでの記事】・第1弾 勝弦峠の合戦・第2弾 戸石城の合戦・第3弾 長森原の合戦・第4弾 三分一原の合戦・第5弾 栃尾城の合戦・第6弾 川中島の合戦・第7弾 箕輪城の合戦・第8弾 三増峠の合戦・第9弾 七尾城の合戦・第10弾 御館の乱・第11弾 郡山城の合戦・第12弾 第一次月山富田城の合戦・第13弾 厳島の合戦・第14弾 第二次月山富田城の合戦・第15弾 長浜城の合戦・第16弾 安芸城の合戦


まずはどのような戦だったのかというと

天正(てんしょう)3年(1575年)に土佐中村(とさ・なかむら)にて長宗我部元親と一条兼定の間に行われた戦いです。

そもそも一条(いちじょう)氏は摂関家(せっかんけ)出身の家柄で、長宗我部(ちょうそかべ)家とは深い間柄にありました。
元親の祖父兼序が本山(もとやま)氏などに攻められて敗死した後、元親の父国親を保護して彼が岡豊(おこう)城に復帰するのを助け、その後も長宗我部氏と各氏との争いの仲介をやるなど、長宗我部氏にとっては恩こそあれ、攻める理由がどこにあったのかいまだに疑問です。

いろいろな説がありますが、安芸(あき)氏が岡豊城を攻めた際に安芸氏に協力したことへの報復とか、そもそも一条兼定が暗愚だったため、一条家の領地を他勢力にとられるのを防ぐためとかいろいろ。

安芸氏と長宗我部氏の戦いについての記事を読みたい方は、下記リンクをタップしてください:
安芸城の合戦―「タイミングの勢法」の威力

しかし、真相はなぞで一般的には「恩を仇で返した」といわれる戦いです。
(元親にとってはそのための逡巡もあったようです)

まずは弟の吉良親貞を一条家臣に接近させ、一条家を離反させた混乱に乗じて一条領に侵入させ、城をいくつか占領させます。

それに動揺した兼定は自暴自棄となり、それを見かねた兼定家臣の土居宗珊は兼定を豊後(ぶんご)大友(おおとも)家に預けます。
元親はそれに乗じて一条領を占領してしまいます。

いったんはこれで収まるものの、兼定は大友義鎮や伊予(いよ)の勢力の支援により栗本(くりもと)城に復帰し、それに対抗した元親と四万十川を挟んで対峙します。
これが「四万十川の合戦」です。

戦そのものの経過としては、数で勝る長宗我部軍が軍を二つに割り一部を上流から渡河(とか)させたところ兼定はそれに対応し自軍も二つに割り、それを見た元親が川を押しわたって一条軍を挟撃(きょうげき)しました。

戦術的に兼定は下策中の下策をやってしまい、お話にならない戦いでした。

ということで、勝因としてはいつもの長宗我部氏のやり方ですが、戦になる前の段取りづくりがめちゃめちゃうまいことですね。
まずは家臣団にヒビを入れて力をそぎ、拠点をいくつか奪った上で戦いに臨んでいます。

北条(ほうじょう)氏・武田(たけだ)氏・上杉(うえすぎ)氏などは(武田氏は内応調略(ないようちょうりゃく)も行いますが)、拠点攻略を行い、戦そのものの展開を読んだうえで敵味方の進路・敵の退路、不利になった場合の味方の退路などを計算する囲碁型の戦いですが、毛利(もうり)家や長宗我部氏は「戦う前に勝つ」というような『孫氏(そんし)』を地で行ったような戦い方がうまいですね。
(羽柴秀吉も戦の前の調略がうまいですが、彼の醍醐味はなんといっても「位攻め(くらいぜめ)」ですね。徳川家康は関ヶ原(せきがはら)や大坂(おおさか)の役でこそ調略を行いますが、基本的に調略は行わない手法です。彼は野戦(やせん)そのもので勝負をつけるのがうまいので「用兵(ようへい)型」といった感じでしょうか。もともと野戦のうまい彼が調略を取り入れたことで、最終的に戦国時代最強となりました。織田信長はまだよく調べていないのでわかりません)


「碁石戦略」の例①:
二俣城の合戦―「見る」のではなく「観る」

「碁石戦略」の例②:
第二次高天神城の合戦-勝者の戦法を徹底的にトレースせよ

「碁石戦略」の例③:
川中島の合戦―場を俯瞰し、目先の動きに没入しない


というわけで、このような戦い方を「毛利・長宗我部型」と名付けることにします笑


毛利元就の戦い①:
第二次月山富田城の合戦―万端過ぎるほどの準備をすべし

毛利元就の戦い②:
厳島の合戦―相手の心理を読み、周到に準備する

羽柴秀吉の戦い:
小牧長久手の戦いに学ぶ―勝ちすぎてはいけない


勝因
・戦の前に敵方の内部に離反者を作る調略力

ですね。

今回は以上です!

※画像はイメージです。

○今回登場した人物のフルネーム(参考:「武家や公家の名前について」)
・長宗我部 弥三郎〔官職は土佐守など〕 秦 (朝臣) 元親
ちょうそかべ やさぶろう〔官職はとさのかみなど〕 はた の (あそん) もとちか
・一条 権中納言〔通称不明〕 藤原 朝臣 兼定
いちじょう ごんのちゅうなごん〔通称不明〕 ふじわら の あそん かねさだ
・長宗我部 宮内少輔〔通称不明〕 秦  朝臣 兼序
ちょうそかべ くないのしょう〔通称不明〕 はた の あそん かねつぐ
・長宗我部 宮内少輔〔通称不明〕 秦 朝臣 国親
ちょうそかべ くないのしょう〔通称不明〕 はた の あそん くにちか
・吉良 左京進〔通称は弥五良〕 源 朝臣 親貞
きら さきょうのじょう〔通称はやごろう〕 みなもと の あそん ちかさだ
・土居 近江守〔通称不明〕 穂積 朝臣? 家忠〔宗珊〕
どい おうみのかみ〔通称不明〕 ほづみ? の あそん いえただ〔そうざん〕
・大友 左衛門督〔通称は新太郎〕 藤原 朝臣 義鎮〔宗麟〕
おおとも さえもんのかみ〔通称はしんたろう〕 ふじわら の あそん よししげ〔そうりん〕
・羽柴 太政大臣〔通称は藤吉郎〕 豊臣 朝臣 秀吉
はしば だじょうだいじん〔通称はとうきちろう〕 とよとみ の あそん ひでよし
・徳川 内大臣〔通称は次郎三郎〕 源 朝臣 家康
とくがわ ないだいじん〔通称はじろうさぶろう〕 みなもと の あそん いえやす
・織田 右大臣〔右近衛大将。通称は三郎〕 平〔藤原、忌部〕 朝臣 信長
おだ うだいじん〔うこんえのだいしょう。通称はさぶろう〕 たいら〔ふじわら、いんべ〕 の あそん のぶなが
☆武家の「通称」の普及を切に願います!

参考
鳳山雑記帳
兵どもが、夢のあと・・・


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