河越城の戦いから学ぶ―基準を満たすまで手綱を緩めてはいけない

鷲谷 城州

2020年10月03日 20:00


《令和6年12月25日更新》

皆さんこんばんは。
今回は「ビジネスに活かす戦国合戦術」第31弾として、「河越(かわごえ)城の戦い」について、ビジネス的視点で見直していこうと思います。

この合戦の動員人数を知りたい方は下記リンクをタップしてください(参考記事に飛びます):
各合戦の動員人数について(5)川越城の合戦
※以前は「川越(かわごえ)城」と表記していましたが、今回より、当時の表記に倣い「河越城」と表記することにしました。

関連記事:
関東を揺るがす戦乱の記録!『関八州古戦録』で戦国の激闘を追体験


【これまでの記事(抜粋)】第5回 長良川の合戦第6回 桶狭間の合戦第12回 三方ヶ原の合戦第14回 叡山焼き討ち第18回 長篠の合戦第21回 高遠城の合戦第22回 江古田原沼袋の戦い 第23回 天目山の戦い第24回 権現山の戦い 第25回 天正伊賀の乱第26回 石山合戦第27回 新井城の戦い第28回 雑賀・根来合戦第29回 第一次国府台の戦い第30回 上月城の戦い


新型コロナウイルスによる武漢肺炎で外出自粛を余儀なくされて久しいですが、皆さんはどんな風に過ごしていますか?

令和2年4月の緊急事態宣言以来在宅ワークを続ける会社、宣言解除後は在宅ワークをなくした会社、そもそも在宅ワークをさせていない会社。

業種・業態など様々なため、一概に「自粛をしないなんてけしからん」というわけにもいかないようですが、個人はどうでしょうか?

皆さん、自粛されてますか?

大抵の方は「自粛」自体はされていると思うのですが、どのくらい自粛されてますか?

里帰りを控えている方、休日に電車に乗るような距離の外出を控えている方、買い物自体を控えている方、さまざまだと思います。
(お住まいの地域にもよりますね)

緊急事態宣言の頃と比べてどうでしょうか?

流石に、緊急事態宣言の頃よりは動いているのかなと思います。

では、7月末に感染者が再び増え始めたときと比べてどうでしょうか?

自粛が緩くなっている方が多いのかなという印象です、

それって、自粛を「緩めた」のですか?それとも、「緩んじゃった」のですか?

「緩めた」としたらなぜ?

どういう根拠で大丈夫だと思ったのですか?

今回は、戦国時代に似たような状況で敗北した人々の話です。
※記事下部に人物の読み仮名をのせています。

まずは合戦の流れをご覧ください!

合戦前夜


長きに渡って関東管領(かんとうかんれい)や関東公方(かんとうくぼう)が争ってきた関東。

関東管領・上杉(うえすぎ)家と関東公方・足利(あしかが)家の戦いだけでなく、上杉家内部での争い、足利家内部での争いも起こり、血で血を洗う戦いの渦中にあったのが戦国時代の関東です。

その状況に一石を投じたのが小田原(おだわら)を拠点とした後北条(ご・ほうじょう)氏です。

始祖の伊勢宗瑞〔北条早雲〕は永正(えいしょう)13年(1516年)に新井(あらい)城を落城させて相模(さがみ)を制圧します。


「関東管領」の登場する記事:
第一次国府台の戦いに学ぶ―「~はずがない」は失敗フラグ

同関連記事:
江古田原沼袋の戦いから学ぶ―できないことをできるようにする方法

伊勢宗瑞関連の記事:
新井城の戦いから学ぶ―慎重に準備し、且つ大胆に行動すべし


跡を継いだ2代・北条新九郎氏綱は武蔵(むさし)に進出し、攻防の末天文(てんぶん)6年(1537年)に武蔵・河越城を落城させ、翌年には武蔵・下総(しもうさ)の国境近くにある国府台(こうのだい)で小弓公方(おゆみくぼう)・里見(さとみ)家・真里谷武田(まりやつ・たけだ)家の連合軍を破ります。


関連記事:
第一次国府台の戦いに学ぶ―「~はずがない」は失敗フラグ

関連記事:
各合戦の動員人数について(4)第一次国府台の合戦

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関東を揺るがす戦乱の記録!『関八州古戦録』で戦国の激闘を追体験


このことに危機感を覚えた山内(やまのうち)・扇谷(おうぎがやつ)の両上杉家は長年の抗争を止め、手を組んで北条家打倒のために動き始めます。

天文10年(1541年)、北条(ほうじょう)家は2代新九郎氏綱が死去し、嫡男(ちゃくなん)新九郎氏康が跡を継ぎました。



合戦の経過


第一次国府台の戦いで北条家と手を結んだ古河公方(こがくぼう)・足利左兵衛督晴氏は、上杉家と同様、北条家の台頭に危機感を抱いたのか両上杉家と手を結びます。

そしてついに天文14年(1545年)9月、上杉・足利連合軍の8万と言われる大軍が河越城を囲みます。
※兵力については8万は多すぎるという説があります。詳しくは↓記事をご覧ください。

関連記事:
各合戦の動員人数について(5)川越城の合戦

↓両陣営の主要拠点と北条新九郎氏康の動きです。
※クリックで拡大されます。



河越城に籠るのは新九郎氏康の義弟・北条孫九郎綱成の兵3,000。

両上杉・足利連合軍の大軍を目の前にして3,000ではあまりにも心もとなく、風前の灯と思われました。

両上杉家は新九郎の援軍を妨害するため駿河の今川治部大輔義元と連携し、北条領に侵攻させました。

新九郎はそちらにくぎ付けになるも(地図①)、甲斐(かい)の武田大膳大夫晴信のあっせんによって今川(いまがわ)氏と和睦(わぼく)(地図②)、8,000の兵を率いて河越城救援に向かいます(地図③)。

孫九郎綱成は寡勢(かせい)ながら数か月耐え抜きました。

その間、新九郎は足利左兵衛督に詫び状を出し続け、降服の意志を示します。

上杉家は構わず北条軍を攻撃しますが、新九郎は府中(ふちゅう)まで兵を退いて降服の態度を見せます。(地図④)

長帯陣と新九郎の腰の引けた態度に安心した両上杉家・足利家の兵卒には圧勝ムードが漂い、緊張感が緩んでいたと言われています。

天文15年(1546年)4月、新九郎はこの隙をつき、両上杉家を奇襲しました(地図⑤)。

不意を突かれた上杉軍は狼狽し、逃げまどいます。

さらに城内にいた孫九郎綱成の軍も城外に打って出て、足利軍を急襲。

上杉軍・足利軍ともに壊滅し、敗走します。

北条家の逆転勝利でした。
※「奇襲」ではなかったという説もありますが、この記事では通説に従うこととします。
※この敗戦で上杉家は実質的に壊滅し、家督(かとく)を長尾平三景虎、つまり後の上杉謙信に譲ることになります。




この戦いから読み取れること


両上杉・足利連合軍の敗因はやはり、油断ですね。

長帯陣と圧倒的な兵力差、新九郎の偽りの投降で緊張感が緩んでしまったことによります。

後世の人間として傍観者の目線で見ると「油断するなんてバカだなぁ」と感じるかもしれません。

しかし、実際に自分が上杉陣中にいたとしたらどうでしょう?

想像してみてください。

半年経っても北条軍は攻撃を仕掛けてこないし、噂によると投降の意志を見せているというし、もう勝ちは決定じゃね?という空気感が漂っているんです。

一緒に従軍した友人は、「もう大丈夫でしょ?上杉の勝ちだから」と言って鎧兜を脱いでリラックスしています。

そんなムードの中「いや、油断してはだめだ。北条家の投降話は嘘かもしれない」なんていえるでしょうか?

みんな、鎧を脱いだりしてリラックスしているときに、一人完全武装で気を引き締められ続けるでしょうか?

これが「臨場感」というものです。

実際、こういうことって現代の日常生活でもよくあることだと思いませんか?



自分で決めた基準を死守する


そう、今まさに世間を苦しめている新型コロナウイルスの一件がまさにこれです。

4月に緊急事態宣言が出たころは世間は恐怖にさいなまれ、買い占めが起こるなど混乱の様相を呈していました。

しかし、5月に宣言が解かれて以降、当初の緊張感はどんどん緩くなり、外出を控えていた人たちの一部は構わず外出するようになっています。
※飲食業など、外出が生活に直結している人々はまた別次元の話になります。

それ、どんな判断基準で動いていますか?

結局、コロナウイルスに関して大丈夫だという人もいるし危ないという人もいるし、どの情報を信じていいのかわかりませんから、判断基準は人それぞれになると思います。

その行動、自分で決めた判断基準をクリアしてのものならいいと思います。

「一日の感染者数が〇名以下になったら自粛を緩める」

という感じで。
※これはあくまで一例で、実際に有効な判断基準かどうかは定かではありません。

しかし、実際のところは長い自粛生活に疲れた、飽きた、とか、「みんな平気で外出してるし、大丈夫じゃね?」という判断で動いちゃってませんか?

それ、すごく危険です。

「大丈夫だ」という確証がなく緩んでしまう状況は、「河越城の戦い」で負けた上杉・足利連合軍と同じ状況なんです。

そして、同様の「油断」はコロナウイルス以外の場面で、これまでにもたくさんあったはずです。

ではどうすればいいのか?

自分で確固たる基準を決めるんです。

そして、その基準を満たすまでは何が何でも手綱を緩めない。

「もうそろそろ大丈夫じゃね?」と根拠なく思ったら危ないです。
心の中で「河越城、河越城」と唱えてください。

ただ、基準を定期的に見直すのはいいと思うんです。
状況は刻々と変わるし、新しい情報も入ってくるので当初の基準が正確でなくなることもありますから。

しかし、その時その時の感情で基準を破ってはいけません。

これ、実は「上手な撤退のしかた」と共通する考えでもあります。

関連記事:
天目山の戦いから学ぶ―撤退のベスト・タイミングとは

人は、不利な状況、つらい状況では感情の統制が緩むので根拠のない不正確な判断基準で動いてしまうことがあります。

そして、その判断は状況を正確に見て決めたことではないので、望まない結果を迎えます。

そういう状況を防ぐためには、冷静なときに基準を決めておき、何が何でもそれを死守する姿勢が重要となります。

周りの声に惑わされず、確証が得られるまで絶対に緩めてはいけません。

心の弱さに負けず、こんな風にリスクを排除して楽しい人生を歩みましょう!

というわけで、今回は「基準を満たすまで手綱を緩めてはいけない」ということについて説明させていただきました。

まだまだ説明したいことはたくさんありますが、今回は以上です!
最後まで読んでいただきありがとうございました!


次回の記事を読みたい方は、下記リンクをタップしてください:
三木合戦に学ぶ―心のエネルギーの源を確保する


以下もご覧ください!

※トップ画像はイメージです。

今回登場した人物のフルネーム(参考:「武家や公家の名前について」)
・伊勢 左京大夫?〔通称は新九郎〕 平 朝臣? 盛時〔長氏、入道早雲庵宗瑞。いわゆる北条早雲〕
いせ さきょうのだいぶ?〔通称はしんくろう〕 たいら の あそん? もりとき〔ながうじ、入道そううんあんそうずい。いわゆるほうじょうそううん〕
・北条〔伊勢〕 左京大夫〔通称は新九郎〕 平 朝臣 氏綱
ほうじょう〔いせ〕 さきょうのだいぶ〔通称はしんくろう〕 たいら の あそん うじつな
・北条 左京大夫〔通称は新九郎〕 平 朝臣 氏康
ほうじょう さきょうのだいぶ〔通称はしんくろう〕 たいら の あそん うじやす
・【古河公方】足利 左兵衛督〔通称不明〕 源 朝臣 晴氏
【こがくぼう】あしかが さひょうえのかみ〔通称不明〕 みなもとの あそん はるうじ
・北条〔福島〕 左衛門大夫〔通称は孫九郎〕 平〔源〕 朝臣 綱成
ほうじょう〔ふくしま/くしま〕 さえもんのだいぶ〔通称はまごくろう〕 たいら〔みなもと〕 の あそん つなしげ
・今川 治部大輔〔通称不明〕 源 朝臣 義元
いまがわ じぶのだゆう/じぶのたいふ〔通称不明〕 みなもと の あそん よしもと
・武田 大膳大夫〔通称は太郎〕 源 朝臣 晴信〔入道信玄〕
たけだ だいぜんのだいぶ〔通称はたろう〕 みなもと の あそん はるのぶ〔入道しんげん〕
・長尾 平三 平 景虎〔のちの上杉謙信〕
ながお へいぞう たいら の かげとら〔のちのうえすぎけんしん〕
☆武家の「通称」の普及を切に願います!

参考
落人の夜話
ここで歴史が動いた!日本の歴史スポット探訪
春の夜の夢


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次回は『麒麟がくる』第23~24回について。

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※The Beatlesの楽曲のカバー。ボーカル・コーラスは筆者の声。楽器隊は打ち込みですが、機材が整い次第自分で演奏する予定です。







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