2006年11月17日
夏目漱石『道草』
Janko FerlicによるPixabayからの画像
漱石が遺作『明暗』の前に書いた、晩年の小説。
自伝的小説で、細部の違い以外はほとんど彼の実体験に基づいているといわれている。
夏目漱石に興味のある方は、下記リンクをタップしてください:
夏目漱石『こころ』におけるKの寿命問題
漱石のご先祖様が登場している記事:
三方ヶ原の合戦―最強の能力「豹変力」
大正時代の「漱石かぶれ」の青年が登場する記事:
『いだてん』、僕は面白いと思うのに、なぜ視聴率が伸びない?(第4~5回)
↓こちらの本について書いています。
道草改版 (新潮文庫) [ 夏目漱石 ]
夏目漱石作品に関する僕自身の感想だが、『坊ちゃん』以外はほとんどストーリー然としたストーリーのない作品ばかりで、現代小説などのストーリー主体の小説に慣れてしまっていると、「で?何が言いたいの?」という気持ちになってしまうに違いない。
その他の夏目漱石関連の記事:
夏目漱石『文学評論』
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夏目漱石『二百十日・野分』
大体の作品が漱石の分身である主人公と、それを取り巻く人々との会話が根幹を成していて、状況の変化、場面の転換は微妙なものばかりで「大どんでん返し」というような大きなストーリー展開がないため、現代小説のような(十把一絡げにはできないが)わかりやすいストーリー性がない。
だからそのつもりで読んでしまうと難しい古い言葉遣いの多い、わけのわからない小説、という印象で終わってしまう。
ところが、ひとたび「主人公の心理状態」に焦点を当てると、神業としか言いようのない心理描写の嵐で、さすが近代小説の金字塔、という尊敬の念が打ち消せなくなる。
そして、文章の表現や引用、言葉遊びの巧みさもまさに脱帽ものである。
今回の紹介の『道草』は晩年の作品ではあるけれど、描いた時代は『吾輩は猫である』とほぼ同時期で、『猫』において漱石の社交的な面に当てられたスポットライトを『道草』では親戚づきあいやプライベートな面に当てたといわれている。
『猫』の明るい印象とは裏腹に『道草』は非常に陰鬱な作品である。
イギリス留学から帰ったばかりでそれほど金のない漱石、そんな彼に、彼の社会的地位の高さから「金を持ってるだろう」と金を無心してくる親戚、養父母。そこから発生する妻とのちょっとしたいさかいなど。
こんな泥沼な状況を描いておきながら、どこかカラっとしたドライさが見えてしまうのも、漱石の作品の特徴である。江戸っ子ならではのドライさなのだろうか。
ともかく夏目漱石作品は超一級に面白いです。
読んだことない方は恥ずかしがらずに『坊ちゃん』からどうぞ。
(『坊ちゃん』は「中学生向け」みたいに言われていますが、そんなことないです。れっきとした大人向け小説。大人だからこそ分かる面白みがありますw)
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Posted by 鷲谷 城州 at 13:35│Comments(0)
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